文=菅野浩二(ナウヒア) 写真=株式会社RECEPTIONIST
■プロフィール
橋本真里子さん|株式会社RECEPTIONIST代表取締役CEO
三重県鈴鹿市出身。2004年に武蔵野女子大学の英語・英米文学科を卒業。著名企業とされるトランスコスモス、USEN、ミクシィ、GMOインターネットなどで主に受付の業務に従事し、受付リーダーとして人材育成や組織運営なども経験。延べ120万人の接客経験を生かすべく、2016年にディライテッド株式会社を設立。2017年にはクラウド型の受付システム「RECEPTIONIST」をリリースした。「受付から内線をなくすと、来客応対はもっと快適に」をコンセプトにしたこのサービスは内線電話を一切使わず、ビジネスチャットやスマホアプリを利用するもの。2022年3月時点で約5000社導入の実績を誇る。
時代の流れに合わせて変化していく母校の素晴らしさ
「母校がこんなふうに発展しているのはうれしいですよ」
そう言って橋本真里子さんは柔らかくほほ笑む。株式会社RECEPTIONIST(レセプショニスト)の代表取締役CEOとして、さまざまな外部ツールと連携し内線電話を介さないクラウド型の受付システム「RECEPTIONIST」や、スケジューリングを自動化する日程調整ツール「調整アポ」といったサービスを展開している。
橋本さんは武蔵野大学の前身である武蔵野女子大学の英語・英米文学科を2004年に卒業した。それから17年後が経過し、母校の進化を肌で感じている。同年に開設されたばかりのアントレプレナーシップ学部の学生に向けて2021年10月に特別講義を行った。その際、70人ほどの1年生の熱量に感動したという。
「2016年に起業に至った経緯やアントレプレナーシップ学部に期待したいことなどをお話しさせていただき、『選択肢を多く持つことが人生の豊かさにつながる』という私の考え方もお伝えしました。質疑応答でたくさんの質問をいただいて、それだけやる気がある学生の姿を見て、卒業生として誇りに感じましたね。私が卒業するころに薬学部ができたり、データサイエンス学部をつくったり、起業家マインドを培うために日本初となるアントレプレナーシップ学部を立ち上げたり、時代の流れに合わせて変化する母校の歩みはとても素晴らしいと感じています」
三重県鈴鹿市から上京して4年間を過ごした母校に対する愛と信頼と期待は大きい。橋本さんは話す。
「柔軟に進化しながら総合大学として時代をリードするような存在になってきている印象があります。弊社でも武蔵野大学の卒業生が働いていますが、とても優秀ですよ。インターンシップにもぜひ武蔵野大学の学生さんに参加していただきたいですね」
みんなまじめに授業に参加する雰囲気が気に入った
高校時代の橋本さんはこれから先、経験したことのない環境に身を置きたいと考えていた。中学と高校は共学。大学は女子大で学ぼうと進路を定めた。高校の先生に相談すると、武蔵野女子大学の推薦枠が来ているという。
「調べてみると『ソーシャルスキル』という講義があることを知ったんです。大学は社会に出る前の一歩前のステージと考えていましたし、女子大という環境だからこそ、女性が社会に出て活躍するための準備ができる授業は、とても有意義なのではと思えました。英語・英米文学科を選んだのも、社会に出たときに汎用性が高いと思ったからです」
入学してすぐ、雰囲気が気に入った。20人程度の少人数制の講義が多く、みんなまじめに授業に参加している。テストだけ受かればいいという甘い空気はない。1年次は土曜日にも講義があり、大学で過ごす時間が長く、しかも充実していた。授業ごとに友人ができ、友だち同士の関係が広がるのも心地よかった。
大学時代、今の自分の土台になる考え方に触れている。高校時代に興味を引かれた「ソーシャルスキル」の講義での出来事だ。
「就職活動を始めた3年生のころだったと思います。『ソーシャルスキル』の先生が『つらいときこそ2倍の笑顔』という言葉を教えてくださって。大学時代で強く印象に残っている学びの一つですね」
座右の銘とも言える人生訓を知った3年次、橋本さんは一つの決断を下す。いわく「就職活動に体重が乗らなかったんです」。就職氷河期にあって、内定獲得が最大の目的になっているような状況に違和感を抱いた。どんな仕事をしたいのかが定まらないまま就職活動を続けても、前向きに社会人になれるイメージが持てず、親に相談して「就職活動をやめる」という道を選んだ。
「大切なのは今の自分の生き方や人生に後悔しないこと」
大学時代にいくつか掛け持ちしていたアルバイトを卒業後も続けたあと、2005年に転機が訪れる。ITアウトソーシングを手がける企業の受付の仕事を始めた。受付業務を進化させた橋本さんのキャリアの原点だ。
「その後、数社で受付の仕事を続けたのですが、10年以上勤めるなかで受付の課題が気になったんです。手書きの受付表や電話の取り継ぎ、膨大な受付表の保管などは時代に合っていないと感じていました。受付は関わる人のほとんどに手間がかかり非効率だなと。IT化すれば解決できるのにと思い、受付から新しい価値を提供していく製品がつくれたらと考えて、そうしたサービスを展開している会社を探しました。でも、なかったので、自分でつくるしかないなと思い、起業を選択したんです」
「受付だけをやってきたのが自分の強み」と前向きにとらえた橋本さんは、2016年にディライテッド株式会社を立ち上げ、2017年には受付システムの「RECEPTIONIST」をリリースした。2020年には社名を株式会社RECEPTIONISTに変更し、現在は約40名の仲間と働く。来客の日程調整から会議室の予約や管理、さらには来客受付までの業務を効率化するサービスを導入している企業は約5000社にのぼる。
卒業生の一人として母校で講義を行った橋本さんは、「自身が大学時代にやらなかったこと」に着目しながら、後輩たちにメッセージを送る。
「留学とインターンシップはぜひ経験してほしいですね。奨学金も同じで、制度をどんどん活用してほしい。大学時代は今見えているものがすべてのような感覚があるかもしれませんが、そうじゃありません。現に就職活動をしなかった私が起業したんですから。大切なのは今の自分の生き方や人生に後悔しないこと。まだ社会に出ていない学生には可能性しかありませんので、前向きにいろんなことに挑戦してほしいです。卒業生も含め、特に同性である女性にはがんばってほしいと思っています」
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※記事中の肩書きは取材当時のものです。また、学部・学科は卒業当時の名称です。
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