学校法人武蔵野大学の創立100周年を記念して2021年に発足した「SICプロジェクト」。メタバース上にスマートでインテリジェンスなキャンパスを開設しよう!というものです。
わかりやすくお伝えするならば、インターネット上の仮想空間に武蔵野、有明、千代田に続く第4のキャンパス(のちに「縁バースキャンパス」と命名)をつくります!ネットが繋がる環境さえあれば、どこに住んでいても「縁バースキャンパス」に集い、学べますよ、というプロジェクトなのです。
今回はこの縁バースキャンパスのデザインチームを率いた武蔵野大学工学部の学部長、風袋宏幸先生(以下、風袋先生)に制作過程などをお話し頂きました!
実はこのインタビュー前日、風袋先生に「心の拠り所となる本を1冊教えてください」とお知らせしておりまして。その1冊には風袋先生の生き様が少なからず反映されているのでは…?と思ったからです。
インタビューの終わり、先生に改めてその1冊をお聞きしたところ返ってきたは2024年5月の聖語、千利休の言葉でした。
「重いものを持つときは軽いものを持つ気持ちで
軽いものを持つときは重いものを持つ気持ちで」
千利休(意訳)
風袋先生
「縁バース」をリリースするこの時期、この聖語が響きましてねぇ…
とお話しされる風袋先生はとても穏やかなご様子。ですが、3年間の長きにわたるプロジェクトの道のりが決して平坦ではなかったことを察するには余りある一言でした。
それは武蔵野キャンパス1号館、1307教室から始まった
この日、私は風袋先生にお会いするため武蔵野キャンパス1号館1307教室に向かいました。卒業生の皆さんもご存じの通り、1号館はかなり古…いや、レトロ感溢れる味のある建物なワケですが、階段を3階まで上るとなんだか端の教室が光り輝いている(ように見える)…!
緊急着陸したUFOに近づくような気持ちで傍に近寄ると、なんとそこが1307教室でした。
1307教室は、縁バースキャンパス上にある「響学スパイラルが生まれる教室」の元となる教室です。
このリアル教室が、縁バースキャンパス上ではあのように表現されるのですねぇ。
(縁バースキャンパスとは全く関係ありませんが、PCの電源をさすコンセントすら近未来感満載でどこに差せばよいのか全然わかりませんでした)
そこへ颯爽と風袋先生の登場!
今回のインタビューで風袋先生にお聞きしたかったのは、この3点です。
・デザインチームの制作秘話
・最初にデザインをおこす時のお話
・卒業生に縁バースキャンパスをどのように使ってほしいか
まずはどのように制作が進んだのかをお伺いしました。
2023年初秋。ついに実作業開始!
風袋先生
JIZAIスクエアは、コンセプトが固まって具体的なカタチが見えてきたのが、2023年の夏から秋にかけてです
「デザインチームは僕と当時4年生だった山下真白くんと卒業生の浅川くん。この3人。山下真白くんはJIZAIスクエアのデザインを担当してくれたんですけど、このまま卒業研究にしちゃおう!ってことで進めました。山下真白くんは2024年3月に卒業したので、今は建築デザイン学科4年生の前田彩花さんが手伝ってくれてます」とのこと。
えーっと。
今が2024年8月で。2023年の夏から秋に具体的なカタチが見えてきたってことはそこから作業が始まるワケで。えぇぇぇぇ???あのデザインを!この短期間!たった3人で!作り上げていたとは!完全に常軌を逸しております。
風袋先生
僕は大事な部分を伝えただけで、途中でちょっと軌道修正が入りましたけど、後は2人がどんどん制作を進めてくれたんですよ。あはは
と笑顔の風袋先生。いやいやいやいや。聞いてるコチラは全く笑えません。
役割分担はこうです。
JIZAIスクエアのコンセプトメイキングとモデリングに加えてロゴやアイコンのデザインを山下真白さんが担当。JIZAIスクエアの仕上げと修正も含めてそれ以外全てを浅川竜成さんが担当。途中参戦した前田彩花さんはYoutube動画の人物アニメーションを担当。風袋先生はデザインチームの統括と関係各所との調整などなど…。
チームがいかに優秀であったかをお話しする風袋先生の姿はまさに子を自慢する親そのもの。「素晴らしいスタッフに恵まれて、風袋先生幸せですね」と感想を述べつつ、さて、もう一つの質問にうつるとしましょう。
今までにない全く新しいキャンパスを
実はこの日、一番お伺いしたかったのが「最初にデザインをおこす時のお話」でした。何かモノをつくるとき、出だし部分って一番時間がかかりませんか?(この文章も実は書き出すまでに3日間かかっております…)
仕事の場面においてもそうです。新規プロジェクトの最初の動き出しは試行錯誤に次ぐ試行錯誤。軌道に乗るまでは苦悩の連続です。
では、縁バースキャンパスの場合はどうだったのでしょうか?
デザインチームが結成されたのが2022年7月。まず最初に取り掛かったのが現実の武蔵野・有明・千代田キャンパスをデジタル化するモデリングワークだったそうですが…。
風袋先生
武蔵野・有明・千代田スクエアは、現在を手掛かりに未来を描くということで順調にデザインが進みました。しかし最後まで残ったのがJIZAIスクエア。そこに期待されたのは、100周年記念事業のシンボル『今までにない全く新しいイメージ』です。「今までにない」ということは、そもそも手がかりがありませんね…
と風袋先生。
「100周年」「今までにない」「全く新しい」。身震いしたくなるワードの数々。凡人ならプレッシャーに圧し潰されそうです。
まず風袋先生は、JIZAIスクエアを山下真白さんの卒業研究にすることを提案。生成AIの活用をはじめ、あらゆる可能性を探りますが、手掛かりを見つけることができません。毎日の授業もある。〆切は絶対に伸ばせない。作業は遅々として進まない。聞いてる私も息苦しくて倒れそう…。
そこで風袋先生は原点回帰することにしました。
その名も「コンセプトドリブン」。発想法の一つだそうです。
風袋先生
「コンセプトドリブン Concept-Driven」というのはコンセプトでデザインを走らせる感じ、と言えばよいでしょうか。今回の場合は、形を生み出すアイデアを拠り所としてデザインを進める方法のことを意味します。
当たり前のようで、制約条件を整理していたら形が決まってしまうような現実世界の建築ではなかなか難しいことです
人生で初めて遭遇するこの「コンセプトドリブン」を全く咀嚼できず目を白黒させていると、「今日、これだけは見てもらいたいってものがありましてね…」と、風袋先生が1本の動画を再生しました。
長さの異なる複数の白い紐が放射線状に広がるオブジェクト。その中心には二人の学生。二人が中央に垂れ下がる紐を引くと、白い紐が各々の規則性を保ちながら動いていく。その動きに終わりはありません。紐につながる鐘も連動して鳴り響き、揺れ動くカラーパネルも光に反射して様々な色を生み出していきます。
この美しい光景に、周りからも笑顔が溢れ、なんともハッピーな空間を作り出していました。
風袋先生
これ、2014年に学生30名とつくった『Reverb Scape』って言うんですけどね
Reverbを調べてみると「残響・反響・鳴り響く・響き合う」。Scapeは「…の風景」。
「響き合う風景」。なんて素敵な言葉なんでしょう!
「この形見て、なんか気が付かない?ほら、アレだよアレ」と言われたその指の先にはJIZAIスクエアのデザイン画が…。
風袋先生
振幅する『Reverb Scape』を上から見るとね、JIZAIスクエアのこの形になるんですよ!
まさかここに繋がるだなんて。
「Reverb Scapeはペンデュラムウェーブという振り子現象を応用して10年前に当時の学生たちと創作した作品です。この空間の中にヒントはすでにあったのです!」とおっしゃる風袋先生。
そしてJIZAIスクエアのデザイン画の隣には「響学スパイラル」の概念図が。「あ!さっきの『Reverb Scape』と色も形もリンクしてる!」と、パズルのピースがパチンパチンと音をたてて次々とはまっていきます。JIZAIスクエアはこのコンセプトをコアにしてデザインをドライブしていった結果だったのですね。
2023年秋、コンセプトが決まればチームに迷いはありません。凄まじい勢いで制作が進み、軌道修正がありつつも2024年5月21日、全てのスクエアがそろって縁バースキャンパスは無事に産声をあげたのでありました。
卒業生の皆さん、最近クリエイティブしてますか?
そして最後の質問。
「卒業生に縁バースキャンパスをどのように使ってほしいか」に対して風袋先生はこう答えてくださいました。
風袋先生
まずは、ホームカミングの場として使ってほしいですね。でもやっぱり、僕としては縁バースキャンパスの場を利用して何かをつくりたい。卒業生参加型プロジェクトです!
先生はこう続けます。
「10年前の『Reverb Scape』のプロジェクト、コンテストに出展した時にね、ノミネートされたけど優勝はできなかったんです。そしたら学生みんな泣いたんですよ。わんわん泣いてね。優勝できずに悔し涙を流す、そんなプロジェクトまたやりたいなぁ」
「モノをつくるって楽しいですもんね」とお伝えした時、風袋先生の顔はその日一番輝いたように見えました。
そして、最後の質問です。「心の拠り所となる1冊を教えてください」。
一つは記事冒頭の千利休の言葉です。「もうひとつあってね。去年の8月の聖語なんですけどね」と教えてくださったのが…
「My life is my message」
Mahatma Gandhi
インド独立の父、マハトマ・ガンジーの言葉です。「私の人生が私からのメッセージ」。
「かっこいいですね。でもガンジーさんが発したからこそ響くんです。いつか自分もこの言葉がいえる人になりたいなぁ」と、風袋先生はおっしゃいましたが、この短いインタビューの中ですら風袋先生の後ろに続く長い道のりが見えましたし、風袋先生の数多の教え子たちも、そのマインドを確かに受け取りこの武蔵野の学び舎を巣立っていったのではないでしょうか。
「私の中では、縁バースキャンパスはまだ未完なんです。いや永遠にアップデートし続けると言った方が良いかもしれません。今はインタラクティブな360度動画をチームで制作しています。皆さん、公開をお楽しみに!」
山下真白さんが卒業し、今は4年生の前田彩花さんが新たにメンバーとして加わりました。先生の道のりはまだまだ続きそうですね。
卒業生の皆さん、最近クリエイティブしていますか?
小さい頃、学生の頃、友達と何かを作り上げて完成した時のあの喜び、覚えていますか?
縁バースキャンパスは、どこにいても仲間と繋がり合える新しいあなたの居場所です。あの頃キャンパスで「よ!」と声を掛けあったように、旧友と繋がり、響き合って新たな感動を作り出し喜びを分かち合える、そんな場に縁バースキャンパスがなればよいな、と、思います。卒業生の皆さんのアバターで縁バースキャンパスが賑わう日を今から楽しみにしています!
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