静謐の聖語板に見出してきたこと
有明キャンパス正門、武蔵野キャンパス正門・北門に設置されている「聖語板」を覚えていますか?
先人のことばを月替わりに掲示しています。
在学時、何気なく見過ごした言葉、瞬時に腑に落ちた言葉、場面を具体的にイメージできる一文、また、思わずその意味を自身に問い掛けた経験はありませんか。
そして、1カ月間、朝に夕に目にすることで、じっくりと心に沁みこんでくる言葉がありませんでしたか?
今も変わらず、「聖語板」は学生に、教職員に、大学を訪れる人に静かに語りかけています。
2月の聖語
「雨の日は雨を愛さう
」
風の日は風を好まう
晴れた日は散歩をしよう
貧しくば心に富まう
堀口大学
今月の聖語は四行詩。作者は詩人、フランス文学者として知られる堀口大学です。文学部出身の卒業生には、聞き覚えのある名前なのだと思います。この詩は「自らに」と題され、詩と随筆を集めた『白い花束』(1948年発行)に収録されています。
慌ただしい日々を送る中で、雨や風がうっとうしく感じる日もあるでしょう。そんな時にこの詩を思い起こしてください。自然に寄り添う暮らしをしていれば、たとえ貧しくても心が豊かになるということかもしれません。50年以上前に自身に向けて書かれた詩ですが、現代の私たちにも通じる普遍的なものがあると思います。
さて、ここで話題になった雨や風、日本には四季折々の美しい呼び名があります。たとえば雨では、桜の時期に降る雨は「桜雨」、梅雨明けした後に再び訪れる長雨は「戻り梅雨」、秋の終わり頃のにわか雨は「秋時雨」、小寒から数えて9日目に降る雨は「寒九の雨」と呼ばれ、豊作のしるしといわれています。風ならば、春特有の激しい風は「春疾風」、初夏の青葉を吹き渡るさわやかな風は「薫風」、秋風を指す「金風」、そして親鸞聖人の御祥月命日(11月28日)に勤まる法要「報恩講」の頃の穏やかな凪は「御講凪」と呼ばれています。
2月は1年で最も寒く、自然に寄り添うには少しハードルが高い時期ですが、寒さが和らぎ日差しがたっぷりと届く日があれば、暖かい服装で散歩をしてみてはいかがでしょう。近所の公園や街の中をのんびり歩くだけでも、今まで気づかなかった春の兆しが見つかるはずです。
堀口 大学(ほりぐち だいがく)
1892年~1981年(明治25年~昭和56年)。東京府東京市本郷区(現・東京都文京区)生まれ。幼少期から17歳まで新潟県古志郡長岡町(現・長岡市)で過ごす。
詩人、フランス文学者。詩や評論、エッセイ、翻訳など著訳書多数。同時代人の文学者たちに多大な影響を与えた。1935年に創設された日本ペン倶楽部の副会長に就任。1957年、日本芸術院会員となる。1958年、詩集『夕の虹』で第10回読売文学賞の詩歌俳句賞を受賞。1967年に勲三等瑞宝章、1974年に勲二等瑞宝章、1979年に文化勲章を受章。
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