静謐の聖語板に見出してきたこと
有明キャンパス正門、武蔵野キャンパス正門・北門に設置されている「聖語板」を覚えていますか?
先人のことばを月替わりに掲示しています。
在学時、何気なく見過ごした言葉、瞬時に腑に落ちた言葉、場面を具体的にイメージできる一文、また、思わずその意味を自身に問い掛けた経験はありませんか。
そして、1カ月間、朝に夕に目にすることで、じっくりと心に沁みこんでくる言葉がありませんでしたか?
今も変わらず、「聖語板」は学生に、教職員に、大学を訪れる人に静かに語りかけています。
7月の聖語
「to do goodを考える前に to be goodを目指しなさい」
安岡正篤
今回は政財界をはじめ各界に多大な影響力を持ち、人材の育成に尽力した安岡正篤氏の言葉です。
「歴代総理の指南番」とも呼ばれた安岡氏ですが、この言葉をかけた相手は要人でも名士でもありません。就活中の大学生…のちにハロゲンランプのトップメーカーとして知られるウシオ電機を創業した牛尾治朗氏でした。
牛尾氏は日本経済新聞の名物コラム『私の履歴書』で、当時の様子を次のように振り返っています。
「TO DO GOODを考える前に、TO BE GOODを目指しなさい」。大学四年のとき就職相談に訪ねた、漢学者の安岡正篤先生にこう言われた。立派なことをしようとする前に、立派な人物になることを心掛けよ――。
当初、希望したわけではない経営者になった時も、まず優れた人物になることを目指した。すると、心の余裕が生まれ、ベンチャー企業だったウシオ電機を育てるうえでずいぶん役立った。失敗や挫折はあっても、明るさを失わないのが身上である。
また、こうも語っています。
人を使うのも、物を売り込むのも、金を借りるのも、経営者の力量である。何よりも大事なことは「TO BE GOOD」(優れた人格)であると思い知らされた。
あれもしたい、これもしたいと将来の夢を描いていた牛尾青年が、安岡氏の言葉を聞いた時の衝撃はいかほどのものだったでしょう。牛尾家は祖父の代より安岡氏と親交があってこのような機会を得たわけですが、この言葉を心に留めて実践するだけでなく、多くの人と分かち合ったことに感心せずにはいられません。
心に残る言葉と出会い、それをどう活かすかはその人次第。牛尾氏のエピソードは、日々をよりよく生きるためのヒントになるのではないでしょうか。
安岡 正篤(やすおか まさひろ)
1898年~1983年(明治31年~昭和58年)。大阪府大阪市生まれ。
陽明学、東洋政治哲学、人物学の大家。東洋思想研究所、金鶏学院、日本農士学校、国維会、師友会などを設立。吉田茂、池田勇人、佐藤栄作ら歴代総理が師と仰ぎ、松下幸之助が創立した松下政経塾の相談役を務める。政財界をはじめ各界に多大な影響力を持ち、人材の育成に尽力する。
<参考文献>
日本経済新聞社(2004)『私の履歴書 経済人35』、日本経済新聞社、pp167-169、p213。
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