武蔵野マガジン

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しなやかに生きていく|守永真彩さん

文=菅野浩二(ナウヒア) 写真=本人提供、鷹羽康博

守永真彩(もりなが・まあや)さん|女優、タレント、ジャズシンガー
東京都出身。2014年3月に武蔵野大学の環境学部環境学科(現 工学部サステナビリティ学科)を卒業。母親は女優や歌手として活動する白石まるみさんで、自身は高校2年次の2009年に日本テレビ『アイドルの穴~日テレジェニックを探せ!~』にレギュラー出演し、芸能界デビューを果たしている。同年、第2回日本グラビアアイドル大賞で新人賞を受賞。趣味はアニメ鑑賞やゴルフ、特技は六段の書道。2016年からジャズシンガーとしての活動も続け、2018年10月にはファーストシングル「My First Night」を発売している。2024年7月7日に結婚。

「ママ、私が地球を救わなきゃいけない」と宣言し、大学進学を決意

2009年秋のある日、親子3人で出かけた。ニコラス・ケイジが主演の『ノウイング』という映画を観るためだ。

サスペンスの要素を含み、災害や事件を扱いながら地球消滅の危機を描いた作品が終わったとき、崇高な使命感が湧いた。高校3年生の少女は、映画館の階段を降りながら高らかに宣言した。

「ママ、私が地球を救わなきゃいけない」

「本気だったんですよ」と、守永真彩さんは柔らかく笑う。たぎる思いは冷めず、「地球を救わなきゃいけない」のなら、地球や環境問題について詳しく知るべきだと考えた。大学に進学する──自分でも思いがけない選択肢が頭に浮かんだ。高校2年生のときから芸能界で仕事を続けていて、その道で生きていくと決めていたのに。

受験シーズンまであと3カ月ほどしかない。けれども、「勉強する必要がある」と感じた意思は揺るがず、大学選びを始める。守永さんは振り返る。

「環境について集中して学ぶ学部が理想だったんですが、武蔵野大学にちょうど環境学部環境学科(現 工学部サステナビリティ学科)というぴったりの学部があることを知って。いろいろと調べたら、私が勉強したかった内容そのものが学べる環境だったので、武蔵野大学に行こうと思ったんです。しかも、環境学部環境学科「環境学専攻」のセンター利用入試は国語1科目での受験が可能になっていて、それで挑戦を決めました」

国語一本に絞り、武蔵野大学に合格 国語一本に絞り、武蔵野大学に合格

すでに芸能活動を始めていたから、曰く「全然、授業についていけてない生徒でした」。一念発起した高校3年生は、国語を教える担任の先生が「放課後にセンター試験の対策をするよ」と言ってくれたので、参加を決意する。最初に現代文の過去問を受けた際は100点満点中30点台に沈んだ。苦境からのスタートに思えるけれど、守永さんはひそかに手応えを感じていた。

「センター試験では現代文の勉強を後回しにする傾向があるからか、ほかの子たちが60点台、50点台、40点台だったんです。『そんなに差がないな』と思って、その日の帰りに本屋さんで参考書を買って1週間勉強したら、次の週には70点台が取れたんです」

そこから先は90点以上しか取らなかった。3カ月の猛勉強を経て、わくわくした気持ちで国語一本に絞ったセンター試験に臨み、見事、合格を勝ち取った。

地球を救うための行動を促す存在を託され、大きな達成感を感じた

晴れて大学生になり、武蔵野キャンパスを歩いていると、映画館の階段を降りていたときのように、ある決意がみなぎった。正門を抜け、並木道を通り、教室にたどり着くまでに「おはよう」と言える友だちをたくさんつくりたいと思った。

結局のところ、その目標は達成された。守永さんは「ものすごく大学生してました」と話し、続ける。

「おはよう」と言える友だちをたくさんつくりたいと思った 「おはよう」と言える友だちをたくさんつくりたいと思った

「多くの人と知り合いになりたいとひそかに決めて、学生がたくさん入っているサークルに入会しました。『オールグラウンド』というサークルで、いろんなグラウンドのスポーツをするという名目を掲げる一方、よくみんなで集まって飲み食いをしていました。夏は海に行って、冬はスノーボードをしてと、本当に楽しい時間を過ごしていました。学部の垣根を越えて友人がたくさんできましたし、まさに青春をしていましたね」

環境学部環境学科では、1年次、バイオ燃料の材料となる炭化水素を大量に蓄積するボトリオコッカスという藻の可能性に注目する。化学燃料に代わる自然燃料への興味はより強まり、卒業研究では太陽熱エネルギーを扱っている。太陽のエネルギーから熱を生み出すアプローチは集光や集熱の方法によっては太陽光発電より効率が高く、初期費用も安い。発電に適した地域の場合、地球に優しい発電法だという結論に達した。

大学時代は芸能活動との二足のわらじを履きこなした 大学時代は芸能活動との二足のわらじを履きこなした

武蔵野大学では、芸能活動との二足のわらじを軽やかに履きこなしてみせた。1年次、大学生として学ぶ環境問題について広告代理店などで夢中に話していると、その熱意が伝わったのか、環境省が推進するエコ・アクション・ポイントというプログラムの仕事が舞い込んだ。大林素子さんとともに公式サポーターとして普及活動に励む日々は掛け値なしに充実していた。「地球を救わなきゃいけない」と心を固めてから約1年、地球を救うための行動を促す存在を託され、大きな達成感を感じた。

「自分に限界をつくらない」という信念のもと、3年次には競馬を放送するグリーンチャンネルのオーディションを受け、合格を果たす。水曜日のリポーターに決まると、毎週火曜日は1限から夕方近くまで授業を受けたあと、大学からそのまま電車とバスを乗り継いで中央競馬の東日本地区における調教拠点である美浦トレーニング・センターのある茨城県美浦村へと向かった。守永さんは言う。

「有明キャンパスから美浦村まで3時間くらいかかるんですよ。着いたら夜中の1時すぎまで打ち合わせをして、終わり次第、部屋で一人インタビューの練習をしたあと15分間くらいだけ寝て、朝3時に起きて、4時から調教師やジョッキー、それから厩務員の方にインタビューするんです。最初はわからないことだらけで必死でした。卒業後もその仕事を続けたんですが、かなり濃い3年間だったと思います」

  • 大学時代は競馬番組のリポーターも務めた

    大学時代は競馬番組のリポーターも務めた

  • 2022年11月から茨城県美浦村の地域おこし協力隊を務める

    2022年11月から茨城県美浦村の地域おこし協力隊を務める

「美浦村は私の第二の故郷。今は美浦村を拠点に生活しています」

2016年からジャズシンガーとしても活動 2016年からジャズシンガーとしても活動

現在はいくつもの役割をしなやかに掛け持ちしている。ラジオ日本の「加藤裕介の横浜ポップJ」の中継リポーターやグリーンチャンネルの番組「日曜レース展望KEIBAコンシェルジュ」への出演に加え、美浦村の地域おこし協力隊を務め、競馬に関する記事やエッセイも書く。ジャズシンガーとしての顔も持つ守永さんは、武蔵野大学で過ごした4年間が今につながっていると感じている。

「大学3年次のときから毎週通っていた縁で、美浦村の地域おこし協力隊になりましたし、当時通っていたアナウンススクールでの学びも今のラジオや司会の仕事に生きていると思います。美浦村は私の第二の故郷。今は美浦村を拠点に生活していますし、真剣に地域おこしに励んでいます。特に女性たちのコミュニティーを確立させたいと思っていて、ヨガやアイシングクッキーをはじめとするお菓子づくりなどのワークショップを開いています。大学時代、子どもたちに集まってもらって自然環境の不思議を一緒に感じるワークショップを開いたこともありますが、現在も環境学部環境学科での4年間が役立っています」

最近は武蔵野大学に足を運ぶ機会があるという。大学時代にお世話になった明石修先生のもとを訪れ、美浦村の地域おこしの可能性を広げる話を重ねている。その行動を通して、霞ヶ浦の水質調査を行っている美浦中学校科学部の子たちと、環境の研究を続ける武蔵野大学の卒業生とをつなぐことができた。

美浦村ではさまざまなワークショップを開く 美浦村ではさまざまなワークショップを開く

美浦村の地域おこし協力隊の任期は2025年11月まで。だからこそ、それまでに第二の故郷と武蔵野大学とのつながりをもっと強めたいと考えている。「たとえば武蔵野の学生に美浦村に来てもらって、美浦村のいいところを探してもらうワークショップも開いてみたいです」と、守永さんはいきいきと話す。

2016年から本格的に取り組むジャズもしかり、やりたいことが次々と出てくる。国語一本で武蔵野大学への合格を決めた少女は今、自分の言葉を発信する可能性を見据えている。新たな夢は本を出すこと。守永さんは声を弾ませる。

「今悩んでいる人たちにとって、少しでも前を向けるきっかけになるような本をつくりたいと思っています。それから、グラスでも机でも洋服でもいいんですが、身の回りの物にフォーカスを当てて、私たちの生活を支えるものが誰によってどのようにつくられているかを写真と一緒に紹介するような本も書いてみたいです。誰もが、見えないところで誰かの役に立ってるんだよ、という社会の在り方を自分の言葉で伝えられたら良いですね」

何足ものわらじを履きこなす。「自分に限界をつくらない」守永さんは、これからもしなやかに生きていく。

※記事中の肩書きは取材当時のものです。また、学校名は卒業当時の名称です。

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